デンマークはEU最大の豚肉生産国でもある。人口580万人に対し豚の頭数は約1,500万頭——その排泄物をどうするかという問題を、国家レベルでエネルギーと肥料の問題として解いた。
家畜排泄物・食品残渣をメタン発酵させてバイオガスを生成。精製したバイオメタンを既存の都市ガスパイプライン網に直接注入する。工場・家庭・発電所がそのまま使える——追加インフラが不要という点が普及の鍵だ。発酵後の残渣(digestate)は高品質の液肥として農地に還元され、化学肥料の使用量が減り、廃棄物処理コストが液肥販売収入に転換される。
デンマークは24時間安定のベース電源も開発している。Copenhagen Atomicsが開発する40フィートコンテナ型・100MWt/ユニットのトリウム溶融塩炉は、2026〜27年PSI臨界実験→2028年1MW実証炉→2030年代商用炉を目指す。Seaborg Technologiesはバージ搭載型で途上国展開を想定。バイオメタン(変動補完)+溶融塩炉(ベース)という組み合わせが長期的なエネルギー自立の設計図だ。
ブラジルは1970年代のオイルショックを契機にサトウキビ由来エタノールの大規模生産を始めた。半世紀かけて積み上げた技術と規模が、今日のバイオプラスチック商業生産の基盤になっている。
石油化学大手Braskem社は、サトウキビ由来バイオエタノールを脱水反応でエチレンに転換し、バイオポリエチレン(バイオPE)として年間約20万トンを商業生産している。「I'm Green™」ブランドで世界市場に供給中だ。決定的な点は化石由来PEと分子レベルで同一であること——川下の成形・包装ラインがそのまま使えます。
日本でも旭化成が開発中のRevolefin™技術がこのルートを参照している。バイオエタノール→エチレン→バイオPEというルートの国内実装が進んでいる。
サトウキビの搾汁後の繊維質(バガス)や農業残渣からのセルロースエタノール(第二世代)の研究開発も進んでいる。食料と競合しない原料からバイオエタノールを作るというLFSのPath Bが目指す方向と完全に一致する。
ノルウェーは石油輸出国でありながら、国内では水力発電を主軸とした電力自給を実現してきた。「エネルギーの上流を変えると下流が全部変わる」——この命題を国家規模で実証している。
ノルウェーの電力の約90%は水力由来です。石炭・石油・天然ガスを合わせた火力発電合計はわずか0.6%。この電源構成の結果として、電力を使うあらゆる活動——暖房・調理・産業・輸送——の環境負荷が根本から変わります。電源がクリーンになると、何を電力で動かしても脱炭素につながります。これはLFSがグリーンアンモニア製造・LiBリサイクル・地域熱供給で「電力を使う設計」を選択する根拠と同じ論理です。
ノルウェーの水力発電が単なる自国電源を超えた意味を持つのは、ノルドプール(北欧国際電力市場)との連携があるからだ。デンマークで風力が余れば、ノルウェーの揚水発電が水を汲み上げて蓄える。風が止めば、蓄えた位置エネルギーを一気に発電して北欧全体に供給する。
ノルウェーの貯水池は北欧の総水力発電量の約半分を常時担っており、北欧全体の「電力バッファ」として機能している。再生可能エネルギーの変動を国境を超えた連携で平準化するこの仕組みは、LFSが地域循環統合モデルで目指すマイクログリッドの連携構造——地域の余剰電力が隣の地域の需要を補い合う——と同じ設計思想だ。スケールが国際電力市場か地域マイクログリッドかという違いはあるが、「孤立したシステムより連携したシステムの方が安定する」という原則は共通している。
電力がクリーンになり電力利用が拡大した結果として生まれる廃リチウムイオン電池(LiB)の大量発生に、ノルウェーはEU電池規則(2023年施行)に準拠した回収・リサイクル体制の整備で先行している。Hydro(水力発電・アルミ大手)がLiBリサイクルに参入しており、回収した金属を再び電池材料として使うクローズドループの構築を進めている。
安価で豊富な水力電力を使ったデータセンターが集積するノルウェーでは、その廃熱を地域暖房(地域熱供給)に活用する取り組みが進んでいる。「廃熱を捨てない」という発想はLFSの変換機能における廃熱利用——農業ハウス・温水施設——と同じ思想の別の表現だ。
日本でも先行事例が動き始めた。ただし現時点ではどちらも「燃料化」が目的だ。バイオプラスチック原料化——炭素を固体として長期保持するという最優先のルート——は、まだ誰もやっていない。
北海道十勝地方・鹿追町(しかおいちょう)のバイオガスプラントで生成される家畜ふん尿由来のバイオガスを精製し、バイオメタンとして帯広ガスの都市ガス導管に混入する「地産地消型サプライチェーン」の構築に向けた3者共同検討が2026年1月に開始された。家畜ふん尿由来バイオメタンの都市ガス導管への混入は国内初の取り組みで、2026年度内の利用開始を目標としている。
十勝地域は畜産・酪農が盛んで家畜ふん尿や食品残渣など未利用バイオマスが豊富に存在する。北海道全体では年間約30万トンのバイオメタン製造ポテンシャルがあり、これは北海道の工業用LNG年間消費量の約50%に相当する。デンマークと同じ論理が、日本の畜産地帯でようやく動き始めた。
日本製紙・住友商事・Green Earth Institute(GEI)の3社が2025年2月に合弁会社「森空バイオリファイナリー合同会社」の設立に合意。木質バイオマスを原料とする国内初のセルロース系バイオエタノール商用生産を目指すプロジェクトだ。NEDOの「バイオものづくり革命推進事業」の助成を受けており、生産したエタノールは主にSAF(持続可能な航空燃料)向けとして展開を計画している。
なお、トヨタ等7社が福島県大熊町で取り組むraBit(ソルガム→セルロースエタノール→E20燃料)も同様に燃料化を目的とした先行事例として存在する。
国内石油化学大手3社が、バイオエタノールからエチレン・プロピレン等のグリーン基礎化学品を製造する技術「Revolefin™」の商用化に向けて動いています。経済産業省の「令和7年度排出削減が困難な産業におけるエネルギー・製造プロセス転換支援事業(HtA)」に採択され、2026年1月に基本契約を締結しました。投資規模212億円のうち104億円を上限に政府補助金を受けます。
2030年度をめどに旭化成×三菱ケミカルが水島コンビナート(岡山県倉敷市)で共同運営するAMECのエチレン製造設備を停止し、三井化学の大阪・泉北(OPC)へ集約します。水島製造所にはRevolefin™の初期生産設備を設置し、設備性能・運転の確認を経て2034年度に3社共同でのグリーン基礎化学品の商用生産開始を目指します。
バイオエタノールを原料とするという設計上、安定した供給元が複数あることがサプライチェーンの強靭性につながります。国産セルロース系エタノールの供給体制確立が次の課題です。なお、バイオエタノールを原料とする設計上、原料の安定調達が前提条件となる。温暖化による農業生産への影響——特にトウモロコシ・サトウキビの収量減少リスク——がこの前提に与える影響は、2030年代以降に顕在化する可能性がある。
これは滋賀で今まさに動いている事例です。ダイハツ工業は滋賀(竜王)工場第1地区において、近江牛の糞尿を発酵材料とした「バイオガス実証プラント」を2024年12月に本格稼働させました。竜王町は2023年1月に滋賀県の市町村として初めて「バイオマス産業都市」に認定されており、耕種農業・畜産業(近江牛)・工業(自動車製造)が連携する「耕・畜・工」のモデルを実現しています。2021年からNEDOの助成を受けて基礎研究・技術開発を進めてきた成果です。
処理能力は日量約2トン(発酵サイクル約2週間)。精製したバイオガスは工場のカーボンニュートラル電気として活用し、発酵残渣から製造した堆肥・液肥は町内の耕種農家に還元されています。将来的には日量約20トンの牛糞から、鋳造工場のアルミニウム溶解に必要な燃料ガスの約10%を賄う計画です。近江牛2,750頭を飼う澤井牧場では「自身でふんを堆肥にしなくて済み、1,000万円ほどのコスト低減になった」という効果も出ています。
デンマーク・ブラジル・ノルウェーが証明した。
日本では先行事例が生まれ始めている。